ファシリティドッグ


人間の為に働いてくれる犬として、盲導犬や警察犬はよく知られた存在ですが、病院などの医療施設で難病の子供やその家族に愛情と安らぎを与える為に専門的に訓練されたファシリティドッグについては、まだ殆ど知られていません。

そして、そのファシリティドッグは、日本にはたった2頭しかいません。

本日は、ファシリティドッグ「ベイリー」のハンドラー兼看護師である森田優子さんの講演の抜粋を御紹介させて頂きます。



入院中の子供は、何度も何度も採血をします。

「骨髄穿刺」といって、太い針をグリグリと腰の骨に刺す検査が必要な子もいます。

ベイリーは、そんな検査でも「ベイリーと一緒なら、あと100回やりたい!」と子供に言わせる力を持っています。

日本の医療は世界最高水準だと言われていますが、それは病気を治す治療でのことです。

我慢することが美徳とされてきた日本は「入院生活の質を上げる為のサポートが乏しい」と言われています。

私はかつて、東京の子供病院で看護師をしていましたが、入院中の子供のお母さんに「ここはまるで牢獄ですね」って言われました。

凄くショックでしたが、実際、入院中の子供は「自由に散歩にも行けない」、「好きな食べ物を持ってきてもいけない」と楽しみが少なく、笑わなくなってしまう子もいます。

そんな時、私が今所属している「シャイン・オン・キッズ」というNPO法人から、ファシリティドッグのハンドラーとしての誘いを受けました。

難病の子供達とその家族を心の面でサポートするためのNPO法人です。



ファシリティドッグのトレーニングセンターは日本には無いので、ベイリーも私もハワイのトレーニングセンターで訓練を受けました。

ハワイの子供病院で先輩ファシリティドッグの後を付いて回る練習もしました。

そのファシリティドッグは重症の患者を集中治療するICU病棟にも入っていきますが、そこには、髪の毛を半分剃られ、頭に大きな傷のある手術直後の子が居て、辛そうに顔をしかめていました。

「こんな大変な時に行っていいの?」と心配する私をよそに、そのファシリティドッグは身体中に管の付いた子のベッドに乗り、添い寝を始めたのです。

すると、その子の表情が、ふっと緩みました。

体を動かすのも辛いはずなのに、その犬に抱きついて目をつぶり、本当に安心した表情になりました。



日本でファシリティドッグの受入れ先を見つけるのは難しく、私も「病院中を笑顔にできるぞ」と思ってベリーを連れて日本に帰ってきたのですが、それまで日本にはファシリティドッグなんていません。

欧米では犬を家族の一員として、家の中で飼うのが当たり前の文化ですが、日本では犬を家の外で飼ってきた歴史があり、「犬を病院の中に入れるなんて」というのが日本の病院の感覚だったのです。

日本にも時々ボランティアで病院にやって来る犬はいましたが、「犬を毎日病院の中に入れる」、「犬を医療スタッフの一員として考える」という感覚はなかったのです。

私達はベイリーを受け入れてくれる病院を必死で探し、ようやく受入れてくれたのが静岡県立こども病院でした。

でも、実際に活動を始めてみると「犬型ロボットじゃダメなの?」、「感染症が心配だから、この病棟は入らないで」と言われ、初めは入れる病棟は一つしかありませんでした。

だから1日の仕事は数分で終わり、出勤してきて1時間後にはもう退社でした。

でも、子供達はベイリーを求めていて、5年が経った今では、殆どの病棟に入れるようになっています。

ベイリーが居ると、子供達と家族に良い変化があるんだと医師や看護師達が気付き始めたのです。

ある目の見えない子は、採血が始まる時、いつもパニックになって泣き叫んでいましたが、ベイリーの頭を撫でながら採血をしたら泣かずにできました。

手術後、痛くて動こうとしなかった子が、ベイリー会いたさにガバッと起き上がって医師を驚かせました。

突然「あなたのお子さんは、癌です」と宣告された家族は、子供の前では気丈に振る舞いますが、ずっと自分の気持ちを押さえ込んでいると、いつか限界がきます。

あるお母さんは、廊下でベイリーを抱きしめて、思いっ切り泣いて、スッキリした表情で子供の元に戻っていきました。



私はファシリティドッグにとって大切な三つの絆があると気付きました。

「ベイリーと子供達」「ベイリーとハンドラー」「ベイリーと医療スタッフ」この三つの絆です。

一つ目の絆は、子供達にとって絆で結ばれているベイリーだから「頑張ろう!」と思うのです。

子供達にとって、ベイリーは共に闘う「尻尾の生えた仲間」なのです。

病棟から手術室まで子供にとっては恐怖の時間ですが、ベイリーは子供と一緒に手術室まで行くこともでき、ベイリーのリードを持って「こっちだよ」と一緒に誘導すると、笑顔で歩いてくれます。

ベイリーのフサフサとした尻尾にじゃれつきながら歩く子もいれば、「尻尾で頑張れって言ってるね!」と嬉しそうに笑う子もいて、怖い気持ちが楽しい気持ちに変わって手術室まで向かって行きます。

二つ目の絆、ファシリティドッグとハンドラーは24時間生活を共にしていて、お休みの日もいつも一緒です。

私とベイリーは、夜は腕枕をして一緒に寝ています。

私との絆があるから、ベイリーは私を信頼して仕事をしてくれるのです。

「人と犬と相思相愛」これがファシリティドッグの真髄で、愛情のやり取りのない犬のぬいぐるみやロボットでは駄目で、これが三つ目の絆です。



私とベイリーは患者さんの治療方針を決める話し合いに参加することもあり、その場で私も患者さんの状態を把握し、その子に合わせた関わり方を考えていきます。

この「目的を持って関わる」というのがファシリティドッグにしかできないことであり、ハンドラーが医療従事者である理由でもあります。

病状が悪化していき、ご飯が食べられなくなってしまった終末期の子がいましたが、「食べたいけど食べられない」そんな状態でした。

そんな時、ベイリーと一緒だと、その子は笑顔で椅子に座り、「ベイリー、見ててね」と言って、ほんの数口ではありましたが、自分でスパゲティをつかんで口に入れたのです。

「ベイリーに会いたいから入院したい」と子供に言わせるほど、病院のイメージが変わるのです。

ベイリーと一緒だと、楽しい気持ちは倍増し、悲しい気持ちや怖い気持ちは半分こでき、殆どの子は元気に退院していきます。

残念ながらお星様になって旅立って行く子もいますが、お空に旅立つ直前までベッドで添い寝することもあります。

お子さんの葬儀に参列することもありますが、ご家族はいつも「ベイリーが居てくれて本当に良かった」、「ベイリーが居なかったら辛いだけの入院生活だった」、「ベイリーが来てガラっと変わった」と言ってくれます。



ミシェルのお父さんは、設計本部勤務当時は病院設計グループに所属していたこともあって、病院には何度も行きましたが、やはり「病院は怖い」という気持ちの方が強く、病院は好きにはなれません

子供病院などでは、壁にアニメや花の壁紙を貼ったりして、少しでも子供の気持ちを和らげる工夫をしていますが、それは大人や設計者の気持ちであって、子供にとっては、本当の心の支えとなるベイリーのような存在の方が遥かに心強いのだと思います。

ベイリー、子供達の心の支えになってくれてありがとう。

これからも元気で過ごしてくださいね



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テーマ : 犬との生活
ジャンル : ペット

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No title

私はファシリティドッグのことを全く知らなかったのですが、お陰様でよく理解できました。
そして、ベイリーさんのようなワンちゃんが、いかに難病の子供達の支えになっているかを知って感動しました。
子供だけでなく、子供を持つ母親にとっても、とても大きな存在だと思います。

No title

素晴らしい試みはもっと普及させるべきですね。
そして人間を含めたすべての哺乳類の中で、他者への共感心が一番強い種である犬を、もっと人類のパートナーとして慈しむことの出来る社会になることを望みます。

Re: No title

>COCOさん
難病の子供達や、その御両親にとって、ベイリーさんのようなファシリティドッグの存在は本当に心の支えになると思います。
ベイリーさんを含むファシリティドッグ達には、健康で幸せな日々を送って頂きたいと願います。

Re: No title

>kuntaさん
kuntaさんが仰るとおりだと思います。
カリーノパパも、ワンちゃんが人のパートナーとして今以上に大切にされる社会になることを願っています。
プロフィール

カリーノパパ

Author:カリーノパパ
●シェリー(シェルティー母):
 とっても優しい理想的な家庭犬
 アンジェの母親です

2016.4.18永眠、享年15歳11ヶ月

●アンジェ(シェルティー娘):
 ボール遊びと食事が大好きです
 我が家で生まれました

●カリーノ(ラフコリーの女の子):
 ショードッグ
  【主なタイトル】
 JKCチャンピョン
 FCIインター・チャンピョン 
 【主な賞歴】
 2009年アジアインターBOB
 2010年ジャパンインターBOB
 2010年近畿インターBOB
 2010年東北インターBOB 
 2010年ペディグリーアワード
 【資格】
 JKC訓練資格CDⅠ

2014.12.9永眠、享年8歳5ヶ月

●ミシェル(ラフコリーの男の子):
 陽気で優しく、人が大好きです
 ショードッグ
 【主なタイトル】
 JKCチャンピョン
 【主な賞歴】
 2011年神奈川インターWD
 2014年熱海愛犬クラブ展WD
 2014年山梨東ドッグコ展WD
 2015年沼津愛犬クラブ展WD
 【資格】
 JKC訓練資格CDⅠ

●カリーノパパ(人間):
 ミシェル達のお父さん
 本職は建築家(一級建築士)
 犬、スキー、ゴルフ、車、絵画が大好き
 1974年から大手建設会社の設計部にて勤務
 1986年に海外部門に異動し、14年間海外勤務
 内13年間をロンドンにて勤務
 2012年に大手建設会社を定年退職
 同年5月から河口湖でスローライフ開始

●訪問ありがとうございます。
4頭の犬と一緒に暮らしながら、日々感じたことを綴っています。
ミシェルとミシェルのお父さんであるカリーノパパが、記事やコメントを書いています。

●コメントは、ありがたく拝見し、返信させていただきます。

●リンクフリーです。貼ったり剥がしたり、ご自由にどうぞ。

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